私好みの新刊 202003

『くらべてわかる地球のこと 北極と南極の「へえー」』 

中山由美/文・写真  学研プラス

  この本の著者は観測隊員ではなく新聞記者だ。「女性で初めて記者とし

て南極観測越冬隊に参加、その後、北極も取材。南極には2回、北極には

7回も取材で訪れています。」とある。どちら極寒の地、

こんなところにも取材に行かれるとは、まずは驚く。「両方見てきたから

こそわかる、南極と北極の違いや、そこからわかる地球のこと」を書いて

いる。南極と北極とは、大陸があるなしは聞いているがほかに何が違うの

か、興味をそそられる。

 「研究者たちといっしょに現地を歩いていると、彼らは、そこで「地球」

を見ていることに気づきました。南極や北極の雪や氷、石、海、大気など

を調べると、地球の今も、昔もわかってきます。・」

「今、わたしたちの時代は二酸化炭素がどんどん増えて、気温が上がっ

ています。その変化のスピードは、これまでの地球ではなかったほど

速いため、地球の未来は大丈夫?と心配になります。」

と書いて話が始まっている。

 最初は、「南極と北極の〈へぇー〉」。南極は大陸、北極はほとんど海洋

であることは知っていたが、南極には3000m級の山があるとか。「南極条約」

があるおかげで、鉱物資源が多い南極でもこれまで戦争が起きたことがない

という。北極のスピッツベルゲン島では、世界各国が仲良く観測や研究をし

ている。ノルウェーの領土だがいろいろな国が争わないように研究所などが

設置されている。

 北極圏には、グリーンランドや北ヨーロッパにも先住民がいる。その先住

民らとも仲良くしながら各国は観測生活をしているようだ。日本から北極へ

は飛行機で1日あれば行けるらしい。ところが南極へは日本から行くとなる

と船と航空機を乗り継いでも1か月はかかるという。

北極海で今深刻なのは地球温暖化の影響である。北極ではどんどん氷が解

けてアザラシなども棲みにくくなり、先住民の自給自足の生活も脅かされ

ている。このままだと、十数年もすると北極海がなくなると言う研究者も

いる。

記者の目で、やさしくわかりやすく書かれているので小学校中学年から

読める。                     2019,08 1,400

 

『ミイラ学 エジプトのミイラ職人の秘密

タマラ・パウワー著・絵 こどもくらぶ訳・編 今人舎

  ミイラに関する絵本が出版された。今までにも、ミイラに関する本はしば

しば出版されているが、いずれもミイラの姿形にかんするものだった。副題

にあるようにこれは「ミイラ職人」が人をミイラにするためのあらゆる技法

がこと細かに書かれている。紀元前に作られたミイラからその技法が浮かび

上がった。「あとがき」には

 「紀元前5世紀に生きていた歴史家ヘロドトス(ギリシャ人)は、『歴史』

という有名な著書を残している。・・・そのなかで、ミイラづくりについても

書いている。その数百年後、ディオドロス・シクルスもより詳しくミイラ化

の方法について記録を残している。」

という。今はCTスキャンなどでその裏付けもとれているらしい。出てくるの

は今も残されている「イウヤ」と「チュウヤ」(エジプトの王)である。

さらに「あとがき」を見ると

 「完璧に保管されていた彼らの顔は、まるで寝顔の様に、今にも目を覚まし

そうに見えた。・・」と。

 さて、どんな技法が使われていたのだろうか。ページをくっていくと・・・

「一番大事なのはナトロンだ。ナトロンとは・・神聖な塩のようなもので、す

べてを殺菌し、遺体を乾かし、保存するために使うのだ。」
イウヤのミイラ
化の話が続く。

「次に、脳を取り出す作業に移る。脳を体内に残すと、その水分によって体が

腐ってしまうからだ。」

「・・・この器具は、脳のやわらかい灰白質をかきまわして液体とするために

使われ・・・」

「次は、内臓を取り出さなければならない。これらも脳と同じで水分を含んで

いるので・・・」

「パネブ(職人)はゆっくりと手を切り口に入れると、腸を取り出し始めた。・」

「腹腔を空にしたら、今度は肺を取り出す作業に入る。・・腹腔の筋肉や繊維を

断ち切る方法を教えた。・・」

「パネブはイピーに、決して心臓は触ってはいけないと教えた。なぜなら心臓は

知性の根ざすところ・」

「遺体は戸外で、太陽の力を借りて乾かすのが通例である。ただし、野犬やジャ

ッカルに・・・」

「ミイラを巻くためのリネンの包帯が用意された。樹脂や香りのついた軟膏、油、

そして香料も・・」と続く。

シンプルな挿絵とともにミイラ作りの全貌が読み取れる。 20198月 2,000

 

            科学読物2020,02